「灘中の算数は関西でもトップクラスに難しい」——中学受験の世界で、これは半ば常識のように語られます。ただ、その「難しさ」が具体的に何を指すのか、そしてなぜ算数がそこまで重要なのかを、データにもとづいて説明した記事は多くありません。

本記事は、灘中の算数を「感覚」ではなく「構造」で理解することを目的にしています。公表されている入試結果や、過去問を分析した各種データを手がかりに、灘の算数がどういう試験なのか、何がどう難しいのか、そして家庭では何をすべきかを、順を追って解き明かしていきます。

結論を先に言えば、灘の算数は「才能がないと解けない魔物」ではありません。出題分野には強い偏りがあり、合格ラインの構造もはっきりしています。正体が分かれば、対策の方向は定まります。まずは「なぜ算数がそこまで重要なのか」から始めます。

1. 結論:灘中の合否は「算数」で決まる

灘中を目指すご家庭が最初に押さえるべき事実は、たった一つです。灘の合否は、算数でほぼ決まります。

これは印象論ではありません。灘の入試は、国語・算数・理科の3教科で行われますが、その配点構成が独特です。

教科配点全体に占める割合
国語(1日目+2日目)200点40%
算数(1日目+2日目)200点40%
理科100点20%
合計500点100%

灘中の科目別配点。国語と算数がそれぞれ2日間で200点ずつと、国算に大きく比重が置かれた構成です。

配点だけを見れば、国語と算数は同じ200点です。ところが、実際に「合否を分けているのはどの教科か」を調べると、算数の存在感が際立ちます。

合格者と受験者の点差、その約6割が算数から生まれている

入試分析では、「合格者平均」と「受験者平均」の差が、どの教科の点差から生まれているかを示す指標があります。「合否への寄与度」です。灘の算数の合否寄与度は、過去の平均で約59%にのぼります。

灘の配点で算数が占めるのは40%です。にもかかわらず、合格者と受験者の点差のうち平均して約6割が算数から生まれている——これは、日本で3〜4教科入試を行う学校の中でも、算数で合否が決まる度合いが特に大きいことを意味します。

理由はシンプルです。国語や理科は、受験生の間で点数が大きく開きにくい教科です。対して算数は、できる子とそうでない子の差がはっきり出ます。つまり、差がつきやすい算数で崩れると、他教科では取り返しにくいという構造になっているのです。

実際、灘の合格者は算数で高い得点を取っています。2026年度の算数(1日目+2日目)の平均点を見ると、受験者平均が約98.6点だったのに対し、合格者平均は約123.8点。その差は25点あります。200点満点の算数で25点の差は、他教科で埋めるのがとても難しい開きです。

ここから導かれる方針は明快です。灘対策は、算数を中心に組み立てる。国語や理科を軽視してよいという話ではありませんが、限られた時間と労力を最も注ぐべきなのは算数だ、というのが、データが示す結論です。

算数が「簡単な年」ほど、算数で差がつく

もう一つ、見落とされがちな事実があります。灘の算数の合否寄与度は年度によって変動しますが、算数が易しかった年ほど、その寄与度が上がる傾向があるのです。過去のデータでは、算数が難化した年は寄与度が5割台前半に下がり、易化した年は6割を超えることもあります。

直感に反するかもしれません。「算数が簡単なら差がつかないのでは」と思えます。しかし実際は逆です。算数が難しい年は、みんなが解けずに点差が縮まります。一方、算数が易しい年は、解けるはずの問題を落とした受験生だけが沈む——つまり、基本を取り切れるかどうかで明確に差がつくのです。

この事実は、対策の方向性を裏づけます。算数が難化するか易化するかは、本番まで分かりません。どちらに転んでも、基本問題を取り切る正確さが合否を左右することは変わりません。だからこそ、難問対策よりも基本の徹底が効くのです。

2. 前提:灘中算数の基本データ(配点・時間・倍率)

対策の話に入る前に、灘の算数がどういう試験なのか、基本の数字を押さえておきます。ここを曖昧にしたまま対策を語ると、方向を誤ります。

項目1日目2日目
配点100点100点
試験時間50分60分
大問数12〜13題5題
解答形式答えのみを書く考え方を記述する
問われる力処理速度・正確さ思考力・記述力

灘中算数の基本構成。1日目と2日目で形式・問題数・求められる力がまったく異なります。

この表だけでも、灘の算数が「2つの異なる試験」であることが見て取れます。詳しくは次章以降で扱いますが、1日目は速く正確に、2日目はじっくり深く——正反対の能力が、同じ「算数」という科目名の下で求められます。

倍率と、合格に必要な得点水準

灘の近年の入試規模も見ておきます。2026年度は、受験者684名に対して合格者282名、実質倍率は約2.43倍でした。倍率だけを見ると「3倍を切っている」と感じるかもしれませんが、これは全国から集まった最上位層どうしの中での2.43倍です。地域の塾で上位にいるだけでは、安心できる数字ではありません。

年度受験者合格者実質倍率
2026684名282名2.43倍
2025734名252名2.91倍
2024736名265名2.78倍
2023730名281名2.60倍

灘中の受験者・合格者数と実質倍率の推移。年度により変動があります。

偏差値の目安も触れておきます。大手進学塾の指標では、灘中はおおむね最難関帯の最上位に位置づけられます。ある大手塾の80%ライン偏差値では68、別の塾では71といった数字が示されており、いずれも全国トップクラスです。ただし、塾によって母集団や算出方法が違うため、偏差値の数字そのものを塾間で単純比較することはできません。あくまで「最上位である」という位置づけの確認にとどめてください。

関西入試における灘の位置づけ

もう一点、関西のご家庭にとって重要な前提を補足します。灘の入試は、関西の統一入試解禁日の午前に1日目、その翌日の午前に2日目が行われます。つまり2日間拘束されるため、この2日間は他の最難関校を受験できません。灘を第一志望にするということは、併願校の組み方まで含めて受験計画を設計するということ。

関西の最難関校は入試日程が集中しているため、過去問演習を始める時期が、首都圏の一般的な目安より早まる傾向。「9月から過去問を10年分」といった全国標準のアドバイスをそのまま当てはめると、関西では間に合わないことがあります。関西の日程から逆算した過去問計画については、後ほど関連記事でご案内します。

ここまでが前提です。次章から、1日目と2日目それぞれの「正体」に踏み込みます。

3. 1日目の正体——13問を50分で解く「処理速度」の試験

灘の算数1日目は、大問12〜13題を50分で解く試験です。単純に割ると、1問あたりにかけられる時間は4分弱。しかも答えのみを書く形式なので、途中式で部分点を稼ぐことはできません。合っているか、間違っているか。それだけです。

この形式が意味するのは、1日目が本質的に「処理速度と正確さの試験」だということ。1問1問はじっくり考えれば解けるものが多いのですが、全問を丁寧に解いていては時間が足りません。速く、正確に、次々と処理していく力が問われます。

「全部解こうとしない」という戦い方

ここで重要な発想があります。灘の1日目は、全問正解を目指す試験ではありません

仮に全13問を50分で解こうとすると、1問4分弱。その中には数分で解ける問題もあれば、時間を溶かす難問も混じっています。合格者でも、すべてを解き切っているわけではありません。むしろ、「解ける問題を見とても、そこで得点を積む」という取捨選択が勝負を分けます。

たとえば、難問を1問に10分かけて落とすより、その10分で解ける問題を2〜3問拾うほうが、得点は伸びます。この「捨てる勇気」と「拾う判断」は、才能ではなく訓練で身につくものです。過去問演習を通じて、問題を見た瞬間に「これは取る/これは飛ばす」を判断する感覚を養うことが、1日目対策の核心になります。

1日目で問われる力を分解する

1日目で得点するために必要な力は、次の3つに分解できます。

このうち、1つ目と2つ目は日々の演習の積み重ねで鍛えられます。難しいのは3つ目で、これは本番形式の演習を重ねて、時間のプレッシャーの中で判断する経験を積まないと身につきません。「解けること」と「時間内に得点すること」は別の能力だということを、早い段階で意識しておいてください。

注意すべき年があります。過去には、1日目が易しくなった年がありました。こうした年は一見チャンスに見えますが、実は落とし穴です。みんなが高得点を取るため、1問のミスが致命傷になるのです。易しい年ほど、基本問題を1問も落とせないという厳しさが増します。

これも、前述の「基本の取り切り」の重要性につながります。難しい年に備えて難問対策をするより、どんな難易度の年でも、取れる問題を1問も落とさない正確さを磨くほうが、安定して合格に近づきます。灘の1日目は、派手さよりも堅実さが報われる試験なのです。

4. 2日目の正体——5問を60分で解く「思考記述」の試験

2日目は、1日目とはまったく性格が異なります。大問5題を60分で解く、途中の考え方を記述する形式です。1問あたり12分。じっくり考える時間があります。

そして問題そのものが、1日目とは質的に違います。1日目が「知っている解法を速く当てはめる」試験だとすれば、2日目は「初見の状況で、試行錯誤しながら着眼点を自分で見つける」試験です。パターンの当てはめだけでは太刀打ちできない、全国屈指の難問が並びます。

記述式であることの意味

2日目が記述式であることには、2つの意味があります。

1つは、部分点が取れるということ。最後まで解き切れなくても、途中まで正しい方針で進めていれば、その分の点数がもらえます。裏を返せば、「解けそうにないから白紙」は、最ももったいない選択です。手が届く範囲まで書き進める姿勢が、そのまま得点差になります。

もう1つは、日頃から考え方を書く訓練が要るということ。頭の中だけで解いて答えだけ書く習慣がついていると、2日目で「考え方を採点者に伝わるように書く」ことができません。普段の演習から、自分の思考を筋道立てて書き出す練習を積んでおいてください。

ここで、記述答案でありがちな「もったいない失点」を挙げておきます。いずれも、思考力そのものではなく書き方の問題で点を落とすパターンです。

これらは、思考力を鍛えるのとは別に、「伝わる答案の型」を身につけることで改善できます。裏を返せば、同じ実力でも、答案の書き方次第で得点が変わるということ。2日目対策では、解けたかどうかだけでなく、書いた答案がどう評価されるかまで意識した練習が要ります。

「誘導」に乗る力

2日目の大問には、しばしば「誘導」と呼ばれる構造があります。大問の中の小問が、前の小問の結果を使って次を解く、階段状の設計になっているのです。(1)で求めたことが(2)のヒントになり、(2)が(3)につながる——という具合です。

この誘導に気づけるかどうかで、大問全体の出来が変わります。小問を別々の問題として解こうとすると行き詰まりますが、「これは1つの物語で、前の結果が次に効いてくる」という視点を持てると、道が開けます。難関校の中でも、こうした誘導設計は最上位校に共通する特徴で、経験を通じて「誘導に乗る感覚」を養うことが、2日目対策の鍵になります。

具体的にイメージすると、こうです。ある大問で、(1)は比較的やさしい設問、(2)はやや難しく、(3)は難問——という構成になっているとします。このとき、(3)を単独で解こうとすると、多くの受験生は手が出ません。ところが、(1)で求めた数値や、(1)を解く過程で気づいた性質が、(3)を解く鍵になっている——という設計が、しばしば仕込まれています。

2日目では「前の小問は、次の小問のヒントかもしれない」と常に疑ってかかる姿勢が有効です。大問の冒頭に「例題」が示されている場合、それは読み飛ばすものではなく、解き方の手本として味わうべきものです。例題の考え方を、後続の問題にどう応用するかが問われているからです。この「誘導を読む力」は、過去問演習を通じて意識的に鍛えていくことになります。

2日目で差がつくのは「問題を読んだ瞬間」——現場の視点

2日目の「取れる子」と「取れない子」は、どこで分かれるのか。前出の指導歴39年のプロ家庭教師(教師No.101001)は、その分かれ目を、かなり具体的な言葉で語っています。

「2日目で得点できない子は、問題を読んだところで手が止まってしまうんです。何をどう進めればいいかの方針が立たず、そこから動けなくなる。逆に、問題を読んで『こう解けばいい』という方針がすぐに見えるレベルの子は、ちゃんと時間内に間に合うんです」

この観察は、2日目対策の本質を突いています。2日目で問われているのは、計算のスピードそのものではなく、「問題を読んで、解く方針を立てられるか」という一点だということ。方針さえ立てば、あとは手を動かして時間内に解き切れる。逆に、方針が立たなければ、時間があっても手が止まったままになります。

だとすれば、2日目対策でやるべきことは明確です。ひたすら速く解く訓練ではなく、初見の問題を見て「どういう方針で攻めるか」を立てる訓練です。過去問や難問に触れるとき、答えを出すこと以上に、「最初にどう筋道を立てたか」を振り返る。この積み重ねが、問題を読んだ瞬間に方針が見える状態を作っていきます。

1日目と2日目、求められる力の違い

  • 1日目:速く・正確に・取捨選択して得点する「処理速度の試験」
  • 2日目:じっくり・試行錯誤し・記述で伝える「思考力の試験」
  • 両方に共通するのは「捨てる/拾う」の判断。全問正解は目指さない

この2つは、対策の仕方も変わってきます。1日目は演習量とスピード訓練、2日目は思考の深さと記述の練習。「算数対策」とひとくくりにせず、1日目型・2日目型に分けて取り組むことが、灘算数の攻略では欠かせません。この視点は、次章で見る「出題分野」とも深く関わってきます。

灘中算数 1日目と2日目の違い 1日目は13問を50分で解く処理速度型、2日目は5問を60分で解く思考記述型であることを対比した図。 同じ算数でも、問われる力が違う 1日目 13問 / 50分 1問あたり 約3.8分 答えのみを書く 処理速度・正確さ 2日目 5問 / 60分 1問あたり 約12分 考え方を記述する 思考力・記述力 配点は各100点。合計200点=総合点の40% どちらか片方だけ得意でも、半分しか取れない 対策も2種類に分ける必要がある 速く解く練習と、書いて示す練習は別物

図|灘中の算数は1日目と2日目で性格が異なる。同じ「算数対策」でひとくくりにすると、どちらかが手つかずになる。

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5. データで見る出題分野——なぜ立体図形が鍵なのか

灘の算数が「難しい」ことは事実です。やみくもに全分野を完璧にする必要はありません。過去問を分析すると、出題分野にはかなり強い偏りがあることが分かります。ここを理解すると、対策の優先順位が見えてきます。

上位5分野で約7割を占める

過去問データによると、1日目・2日目とも、出題得点シェアの上位5分野で約7割を占めます。しかも、その5分野は1日目と2日目で顔ぶれがほぼ共通しています。

順位1日目(上位5分野で68.5%)2日目(上位5分野で72.3%)
1位数の性質(18.8%)立体図形(27.1%)
2位平面図形・割合あり(17.7%)場合の数(19.2%)
3位立体図形(14.5%)数の性質(12.5%)
4位速さ(9.2%)速さ(7.2%)
5位場合の数(8.3%)平面図形・割合あり(6.3%)

灘中算数の単元別出題比率(過去問データにもとづく分析値)。分野の偏りがかなり強いことが分かります。

この表から読み取れることは2つあります。1つは、「数の性質」「平面図形」「立体図形」「速さ」「場合の数」の5分野が、1日目・2日目を貫く主戦場だということ。もう1つは、その中でも2日目の立体図形が突出していることです。

なぜ立体図形が最重要なのか

特に注目すべきは立体図形です。2日目では全体の約27%を占め、単独でトップ。合否を分ける「出来が分かれる問題」(後述するレベルB)の中でも、立体図形は最大のシェアを持ちます。2日間を通して見ると、出来が分かれる問題の中で立体図形が占める割合は約24%——数の性質・場合の数・平面図形と合わせた上位4分野で、出来が分かれる問題の7割を超えます。

立体図形・数の性質・場合の数・平面図形の4分野を集中的に磨くことが、合否を分ける問題での得点に直結します。全分野を均等に対策するのではなく、この4分野に重点を置くのが、データにもとづいた戦略です。

灘の立体図形は、単なる公式当てはめでは解けません。展開図を組み立てた立体の体積を求めさせる、複雑な立体を切断する、立体の影を考えさせる——といった、空間を頭の中で操作する力が問われます。これは一朝一夕には身につかず、早い段階からの積み重ねが効いてきます。

立体図形の中でも、出題タイプは分かれている

「立体図形」とひとくくりにしましたが、過去問を細かく見ると、灘で繰り返し出題される型がいくつかあります。代表的なものを挙げます。

出題タイプ問われる力
展開図の組み立て展開図から立体を復元し、体積などを求める空間把握力。灘が特に好む型
回転体複合図形を回転させた立体の体積。手数を減らす工夫が効く
立体の切断切り口を正しく捉え、分割して求積する技術
立体の影光源と立体から影を考える、新規性の高い難問領域

灘中で繰り返し見られる立体図形の出題タイプ。年度により組み合わせは変わります。

これらに共通するのは、「知っている解法を当てはめる」だけでは足りず、その場で立体をイメージして操作する必要があるという点です。たとえば展開図の問題では、「組み立てる」のではなく「有名な立体から削り出して考える」といった発想の転換が求められることがあります。こうした発想は、問題演習の量だけでなく、手を動かして立体を描き、試行錯誤した経験の質から育ちます。

逆に言えば、立体図形は対策の効果が出やすい分野でもあります。出題される型がある程度決まっているため、早くから体系的に取り組めば、得点源に変えられます。多くのご家庭が苦手意識を持つ分野だからこそ、ここを固めることが、周囲との差につながります。

ただし「捨て分野」は作れない

ここで一つ、重要な注意があります。偏りが強いからといって、上位分野以外を捨てるのは危険です。

理由は、灘が2日間入試で問題数が多く、上位5分野以外もまんべんなく出題されるからです。特に、受験生のほとんどが解ける基本問題(レベルA)は、出題分野の幅が広い傾向。この基本問題を落とすと、そのぶんを難しい問題で取り返さなければならず、致命傷になりかねません

「合否を分ける問題」に絞ると、偏りはさらに際立つ

もう一段、解像度を上げます。出題全体ではなく、合否を分ける「出来が分かれる問題」(レベルB)だけを取り出すと、分野の偏りはいっそう強くなります。

2日間を通して見ると、この勝負問題の中で、立体図形・数の性質・場合の数・平面図形の4分野が占める割合は約7割に達します。特に2日目では、上位2分野(立体図形と場合の数)だけで、勝負問題の過半を占めます。

これは、対策の優先順位を明確にします。時間が限られる小6後半に、どの分野の「勝負問題」を優先して磨くか——答えは、この4分野です。全分野の土台を固めたうえで、合否に直結するこの4分野の勝負問題を、レベルBまで安定して取れる状態に持っていく。これが、得点を最大化する道筋です。

戦略はこうなります。小5から小6前半までは、分野を選り好みせず全分野の土台を固める。そのうえで、小6後半から立体図形をはじめとする頻出分野を重点的に磨く。この順番が、灘算数の王道です。次章では、その「重点的に磨く」の目標をどこに置くべきか——合格ラインの構造を見ていきます。

6. 「難しい」の本当の意味——合格ラインの構造

ここまで「灘の算数は難しい」と繰り返してきましたが、その「難しさ」の正体を、合格ラインの観点から正確に捉え直します。実はここに、灘対策で最も重要な発想の転換があります。

問題は3つのレベルに分かれている

灘の算数の問題は、難易度によっておおむね3つのレベルに分けられます。

レベル内容おおよその割合
レベルA受験生のほとんどが正解できる基本〜標準1日目約40%/2日目約45%
レベルB出来が分かれる、合否を決める勝負問題1日目約50%/2日目約45%
レベルC合格者でも本番で解けないことが多い難問両日とも約10%

灘中算数の難易度比率(過去問データにもとづく分析値)。年度により変動します。

合格ラインは「レベルA完答+レベルBの半分」

ここが核心です。過去問データを分析すると、算数の合格者平均に届くために必要な得点は、「レベルAを取り切り、レベルBを半分ほど得点する」ことで到達できる、という傾向がはっきり出ています。

具体的には、1日目なら「レベルA(40%)+レベルBの半分(25%)=約65%」、2日目なら「レベルA(45%)+レベルBの半分(22.5%)=約67.5%」。しかも、この割合は問題セットの難易度が変動しても、ほぼ一定だとされています。

この事実が意味するのは重大です。灘に合格するために、レベルCの難問を解ける必要はない——少なくとも、合格者平均に届くという意味では。合格を分けているのは、「基本を取り切る正確さ」と「勝負問題を半分取る力」なのです。

「合格者平均」と「安全圏」は違う——現場の視点

ただし、ここで一つ、現場感覚として補っておきたいことがあります。当ネットワークに在籍する、指導歴39年のあるプロ家庭教師(教師No.101001)は、合格ラインについて次のような趣旨のことを話しています。

「たとえば1日目で80点を取り、2日目は難しいので65点ほど、という得点でも、合格者平均という意味では通ります。ただ、多くのご家庭は『何としても合格したい』と考えるはずです。だとすれば、その合格者平均に、さらに1割ほど上乗せするつもりで準備しておきたい。というのも、本番では、ふだんの実力より得点が下がるお子さんのほうが多いからです。感覚的には、本番で得点が下がる子が7割、逆に上がる子は3割ほど。だから、ぎりぎりの得点を目標にしていると、本番で届かないことがあるのです」

この指摘は、前述の「合格ラインは約65〜67.5%」という数字を、より実践的に捉え直させてくれます。合格者平均は「通過点の目安」であって、「安全圏」ではありません。本番で実力を出し切れないことまで織り込むなら、目標は合格者平均そのものではなく、そこに少し上乗せした水準に置く。これが、数字の裏にある現場の知恵です。

発想の転換——「難問が解ける」より「基本を落とさない」

多くのご家庭が、灘対策と聞くと「超難問をどう攻略するか」に意識が向きがちです。しかしデータは、逆のことを示しています。

合格を分けているのは、レベルAを1問も落とさない正確さと、レベルBを着実に半分取る安定感です。派手な難問を1問解けるようになることより、取れるはずの問題を取りこぼさないことのほうが、合否には効きます。

これは、日々の学習の方向性を大きく左右します。「解けない難問」に時間を注ぐより、「解けるはずの問題を、速く・正確に取り切る」訓練に軸足を置く。この発想の転換ができるかどうかが、灘算数で伸びる家庭とそうでない家庭を分けます。

なぜ、多くの家庭が対策の方向を誤るのか

ここまでの話は、実はシンプルです。「基本を取り切り、勝負問題を半分取る」——それだけです。にもかかわらず、多くのご家庭が対策の方向を誤ります。なぜでしょうか。

理由は、「灘=超難関=難問を解けなければ」という思い込みにあります。灘の過去問を開くと、確かに大人でも唸る難問が並んでいます。その印象に引きずられて、「こんな問題が解けるようにならなければ」と、難問演習に時間を注いでしまうのです。

これまで見てきたとおり、合否を分けているのはレベルCの難問ではありません。レベルAを落とさない正確さと、レベルBを半分取る安定感です。難問が解けることは、合格の必要条件ではないのです。

この誤解を解くことが、灘算数対策の第一歩です。的を「難問攻略」から「基本の取り切りと勝負問題の安定」に定め直す。そのうえで、お子さまが今、レベルAを取り切れているか、レベルBのどの分野でつまずいているかを見極める。正しい的に向かって、正しい順番で努力する——これができれば、灘の算数は「越えられる壁」になります。

もちろん、レベルBを半分取るためには、相応の実力が要ります。決して簡単な話ではありません。ただ、目指すべき的がはっきりしているのは、対策を進めるうえで大きな助けになります。次章では、この的に向かって、学年別に何をすべきかを整理します。

7. 学年別・家庭でやるべき対策

ここまでの分析を、具体的な行動に落とし込みます。灘算数の対策は、学年によってやるべきことが変わります。時期を間違えると、努力が空回りします。

小4〜小5前半:土台づくりの時期

この時期にやるべきは、分野を選り好みせず、全分野の基礎を満遍なく固めることです。前章で見たとおり、灘は基本問題(レベルA)の分野の幅が広く、どの分野にも穴を作れません。特定分野を先取りするより、抜けのない土台を築くことを優先します。

具体的には、計算力を徹底的に鍛えること。灘の1日目は処理速度が問われるため、計算が速く正確であることは、すべての前提になります。毎日の計算練習を、この時期に習慣として定着させておきたいところです。あわせて、各分野の典型問題を、解法を理解しながら一通り身につけていきます。

小5後半〜小6前半:全分野の完成と、思考力の芽

基礎が固まってきたら、全分野を標準レベルまで引き上げつつ、考える問題への耐性をつけていく段階です。

この時期に意識したいのは、答えを出すだけでなく「なぜその解法なのか」を言葉にする習慣です。2日目の記述対策は、実はこの時期の思考の質から始まっています。頭の中だけで処理せず、考え方を書き出す練習を少しずつ取り入れておくと、後の記述対策がスムーズになります。

頻出分野である立体図形は、習得に時間がかかります。小6後半に慌てて詰め込むのではなく、この時期から手を動かして立体を描く経験を積んでおくことが、後で効いてきます。

小6後半:灘の形式に特化する時期

いよいよ本番形式での対策に入ります。ここで初めて、1日目型・2日目型に分けた訓練が本格化します。

過去問演習は、この時期の中心になります。ただし、ただ解いて丸つけするだけでは足りません。「どの問題を取り、どれを捨てるべきだったか」「なぜこの問題を落としたのか(知識不足か、時間配分か、判断ミスか)」を1問ごとに振り返り、次に生かす。この分析の質が、直前期の伸びを決めます。

家庭でのサポートで、避けたいこと

学年別の対策と合わせて、家庭での関わり方で気をつけたい点にも触れておきます。灘を目指す環境では、保護者の方の焦りが、かえってお子さまの伸びを止めてしまうことがあります。

お子さまが小学生であることを忘れず、長い受験生活を走り切れる状態を保つことも、算数の実力と同じくらい大切です。メンタル面の支え方については、受験メンタルが崩れる理由と、崩れない学習設計の作り方でも扱っています。

過去問をいつから始め、何年分やるべきかについては、最難関中学の過去問はいつから?何年分?で、関西の入試日程から逆算して詳しく整理しています。あわせてご覧ください。

8. なぜ集団塾だけでは埋まりにくいのか

ここまで読んでいただくと、灘の算数対策が「やることは明確だが、実行は簡単ではない」ことが伝わったかと思います。最後に、その実行を支える体制について触れます。

集団塾の強みと、構造的な限界

まず前提として、灘対策において大手進学塾のカリキュラムはかなり重要です。灘に必要な単元を体系的に網羅し、豊富な演習量を提供し、同じ目標を持つ仲間との競争環境がある。これは家庭学習だけでは得がたい価値です。灘合格者の多くが進学塾に通っているのは、それだけの理由があります。

ただし、集団指導には構造的な限界もあります。それは、一人ひとりの弱点に合わせた対応が難しいことです。

これまで見てきたとおり、灘の算数で問われる力は多面的です。1日目の処理速度、2日目の記述力、立体図形の空間認識、取捨選択の判断——。そして、これらのどこにつまずいているかは、お子さまによって異なります。ある子は計算は速いが記述が苦手、別の子は思考力はあるが取捨選択ができずに時間を溶かす、という具合です。

集団授業では、全体に向けた指導が中心になるため、こうした個別の弱点をピンポイントで埋めるのは容易ではありません。授業を受けて理解した「つもり」でも、実際の答案では同じところでつまずき続ける——という状況が起こりえます。

答案を見て、弱点を特定する

ここに、個別指導が力を発揮する場面があります。お子さまの実際の答案を見て、どこで・なぜつまずいているかを特定し、そこに絞って対策する——この作業は、1対1だからこそ精度高く行えます。

たとえば、2日目の記述で点が伸びない場合、その原因は「思考力そのものの不足」なのか「考えは合っているのに書き方で減点されている」のかで、打つ手がまったく違います。前者なら思考訓練が、後者なら記述の型の指導が必要です。この見極めは、答案を丁寧に読み解くことで初めて可能になります。

灘の算数を的確に指導できる指導者は、そもそも限られています。最難関特有の出題傾向を理解し、お子さまの弱点に合わせて対策を設計できる——そうしたプロの存在は、集団塾を補完する役割を果たします。塾を軸にしつつ、埋まりにくい弱点を個別指導で補う形が、灘対策では現実的な選択肢になります。

Proチューターズネットワークの灘対応について

当ネットワークは、兵庫・神戸を拠点に、最難関中学受験を専門とするプロ家庭教師のマッチングを行っています。灘をはじめとする関西最難関校の対策に対応できる教師が在籍しており、お子さまの答案と現状を踏まえて、弱点に絞った個別指導をご案内できます。

本記事でも、指導歴39年のプロ家庭教師(教師No.101001)の現場での知見を交えてお伝えしました。こうした灘の出題を知り尽くした教師が、お子さまの答案を見ながら、1日目・2日目それぞれの弱点に合わせた対策を組み立てます。

指導料は教師ごとに設定されており、ご家庭と教師の直接契約による形をとっています。無料の体験授業を受けたうえでご判断いただけ、教師の変更にも費用はかかりません。灘対策を検討されているご家庭は、まず地域別のプロ家庭教師一覧をご覧いただくか、無料体験授業でお子さまの現状をお聞かせください。

灘中学校の指導実績がある教師

3名が近畿に登録しています

うち2名はオンライン指導に対応しています。指導料は1時間5,000円〜6,000円。
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9. 入試問題が語る、灘が求めている生徒像

ここまで出題の構造を見てきました。最後に、その構造から学校が何を求めているのかを読み取っておきます。校風の話ではありません。入試問題そのものが、学校からのメッセージだという話。

2日間で、正反対の力を測っている

1日目は13問を50分。1問あたり4分弱で、答えだけを書く形式です。2日目は5問を60分、1問12分かけて考え方を記述します。同じ算数で、これほど性格の違う試験を2日続けて課す学校は多くありません

ここから読み取れるのは、灘が「速く正確に処理する力」と「筋道を立てて説明する力」の両方を、独立した能力として見ているということ。どちらか一方が突出していても届かない設計になっています。

噛み合いやすいタイプ、そうでないタイプ

実際の指導で見ていると、灘の形式と噛み合うのは手を動かすのが速く、かつ「なぜそうなるか」を言葉にできる子です。計算が速いだけでは1日目しか取れません。じっくり考えるのが得意でも、1日目で失点すれば2日目で挽回する幅は限られます。

逆に、同じ形式を2日繰り返す甲陽学院とは、求められるものが違います。調子の波が小さく安定して力を出せる子は甲陽、山と谷はあるが瞬発力と思考力の両方を持つ子は灘——大まかにはこう分かれます。詳しくは甲陽学院中の入試対策をご覧ください。

併願を考えるときの視点

灘と同じ日程には甲陽学院があり、両校は併願できません。この2校のどちらを受けるかが最初の分岐になります。判断材料は模試の判定ではなく、両校の過去問を同じ年度でそろえて解いたときの得点率です。

灘の1日目の形式は、短時間で多くの問題を処理させる他校の入試とも共通します。灘対策で鍛えた処理速度は、併願校でもそのまま効きます。灘を第一志望に据えることは、併願校の対策と矛盾しません

まとめ:灘の算数は「構造」から攻める

この記事の要点を、最後にまとめます。

灘の算数は、確かに関西でもトップクラスの難しさです。その難しさは「才能の壁」ではなく、「構造として理解し、正しい順番で対策すれば、道が見える壁」です。配点で算数が合否を握ること、1日目と2日目が別物であること、分野が偏っていること、合格ラインが基本と勝負問題で決まること——これらを踏まえて、限られた時間をどこに注ぐかを設計する。それが、灘算数攻略の出発点です。

お子さまが今どの段階にいて、どの力が足りていないのか。それを見極めることから、灘への道は始まります。

よくある質問

Q 灘中入試で、算数はどれくらい合否に影響しますか?
A 灘中では算数の配点が国語200点・算数200点・理科100点のうち200点と全体の4割を占めます。合格者平均と受験者平均の点差のうち、平均して約6割が算数から生まれているというデータもあり、日本の主要な3〜4科目校の中でも算数で合否が決まる度合いが特に大きい学校です。算数を固めることが、灘対策の中心になります。
Q 灘中の算数は1日目と2日目で何が違うのですか?
A 1日目は大問12〜13題を50分で解く、答えのみを書く形式で、処理速度と正確さが問われます。2日目は大問5題を60分で解く記述形式で、途中の考え方を書きながら初見の問題に食らいつく思考力が問われます。同じ算数でも求められる力の方向性が大きく異なるため、対策も分けて考えることになります。
Q 灘中の算数で、合格ラインに届くにはどれくらい取ればいいですか?
A 年度によって変動しますが、分析データでは、受験生のほとんどが解けるレベルAの問題を取り切ったうえで、出来が分かれるレベルBの問題を半分ほど得点すると、算数の合格者平均に届く傾向。難問(レベルC)を解けなくても、基礎から標準レベルを取りこぼさず積み上げることで合格ラインに到達できるという構造です。
Q 灘中の算数対策は、集団塾だけで十分ですか?
A 集団塾のカリキュラムは灘対策の土台として重要ですが、1日目の処理速度、2日目の記述の詰め、立体図形など特定分野の弱点は、お子さまごとに課題が異なります。授業を受けるだけでは埋まりにくい個別の弱点を、答案を見ながら補う場面ではプロ家庭教師の個別指導が役立ちます。塾を軸にしつつ、弱点に絞って補う形が現実的です。
Proチューターズネットワーク 編集部
中学受験を専門とするプロ家庭教師マッチングサービス「Proチューターズネットワーク」が運営する受験情報メディア。最難関校から中堅校まで、志望校のレベルを問わずご相談を承っています。兵庫・神戸を拠点に、灘から中堅校まで関西の中学受験の情報を、保護者の方に向けて発信しています。

それでも、一度お話を聞かせてください

ここまで読んで、「うちの子は1日目と2日目のどちらで崩れるのか」と思われたかもしれません。

ご家庭だけで抱えていると、「これは相談していいことなのか」を決めるところから始まります。そこで数週間が過ぎるのが、いちばん惜しい。

学年と、いま気になっていることを一言いただければ、こちらで整理してお返しします。その場で決めていただく必要はありません。家庭教師以外の選択肢をお伝えすることもあります。

力になれることがあるなら、なりたいと思っています。

合格や成績の伸びをお約束することはできません。ご希望の条件によっては、お引き合わせが難しい場合もあります。
体験授業を受けたうえで、家庭教師が要らないと判断されたときは、そう言っていただいて構いません。

灘の算数、
お子さまの弱点はどこにありますか

答案と現状をうかがい、
1日目型・2日目型のどこに課題があるかを整理します。

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