「過去問はいつから始めればいいですか」「何年分やればいいですか」——夏が近づくと、この2つの質問が一気に増えます。検索すれば、答えはすぐ見つかります。9月から。第一志望は10年分を3回。

ただ、この数字をそのまま関西の最難関受験に当てはめると、計算が合いません。理由は3つあります。関西の統一解禁日は1月中旬で、首都圏の2月1日より約2週間早いこと。灘や甲陽学院のような学校は2日間入試で、過去問1年分が2日分になること。そして前受け校と併願校の分も、同じ数か月に詰め込む必要があることです。

この記事では、まず関西の日程を正確に押さえたうえで、「10年分×3回」を実行するとどれだけの時間が必要になるのかを計算します。そのうえで、限られた時間の中で何を優先し、何を捨てるのか——現実的な配分と、1年分の正しい使い方を整理します。

なお、入試日程や実施形式は年度によって変わります。この記事の日程は執筆時点の情報をもとにした説明ですので、実際の出願にあたっては必ず各校の最新の募集要項でご確認ください

1. 結論:「9月開始・10年分」は首都圏の常識

最初に結論をお伝えします。「小6の9月から始めて、第一志望は10年分を3回」という定番の目安は、間違いではありません。ただし、それは2月1日に本番を迎える前提の数字です。

2週間の差が意味すること

関西2府4県の私立中学入試は、例年1月の第2または第3土曜日を統一の解禁日としています。首都圏の2月1日と比べると、本番までの持ち時間が約2週間短いことになります。

「たった2週間」と思われるかもしれません。9月から本番までを数えると、首都圏は約22週、関西は約19週です。持ち時間が1割以上少ない。しかも失われる2週間は、追い込みの密度が最も高い、1月の最後の2週間です。冬期講習が終わり、過去問の総仕上げに入るその時期が、関西にはありません。

1年分が「2日分」になる学校がある

もう一つの決定的な違いが、2日間入試です。灘や甲陽学院などの一部の難関校は、統一解禁日とその翌日の2日間をかけて入試を行います。灘の場合、1日目の午前に国語・理科・算数、2日目の午前に2回目の算数・国語という形式です。

過去問「1年分」を解くということは、2日分・5科目の試験を解くということ。首都圏の多くの学校は1日完結の4科目ですから、同じ「10年分」でも実際の分量が違います。

だから、数字ではなく計算から入る

ここから導かれる方針はシンプルです。「何年分やるか」を先に決めるのではなく、使える時間を計算してから、入る量を決める。

定番の数字を鵜呑みにして走り出すと、11月に「終わらない」ことに気づき、慌てて解きっぱなしのまま量だけこなす——という、最も成果の出ない状態に陥ります。次の章から、順番に計算していきましょう。

2. まず日程を正確に押さえる——関西の特殊性

逆算の起点は、本番の日付です。ところが関西の日程は、首都圏と比べて構造が複雑です。ここを曖昧にしたまま計画を立てると、後で必ず破綻します。

統一解禁日と、その後の3日間

関西の私立中学入試は、統一解禁日に多くの学校が初回入試を実施し、その後も各校の裁量で日程が組まれます。最難関帯の主な形を整理すると、次のようになります。

学校の例日程の特徴過去問への影響
灘・甲陽学院統一解禁日と翌日の2日間入試1年分=2日分・5科目前後
神戸女学院2日間だが、日曜を避けて中1日を置く2日分+当日の間隔の再現が難しい
東大寺学園・洛南高附例年3日目に入試第一志望の疲労後に本番が来る前提の演習が必要
前受け校(他地域の学校)12月〜1月上旬に関西会場で先行実施過去問の対象が増え、開始時期が前倒しになる

特に注意したいのが、甲陽学院のように2日間の考査を1つでも受験しないと失格になるケースです。日程の理解は、過去問計画である以前に出願そのものに関わります。

前受けが、過去問の開始時期を前倒しにする

関西圏外の学校の中には、12月や1月上旬に関西会場を設けて先行して入試を行うところがあります。本命の前に「場慣れ」として受験する、いわゆる前受けです。

ここで見落とされがちなのが、前受け校にも過去問があるという事実です。何も対策せずに受けて不合格になれば、本番前に自信を失いかねません。かといって本格的に対策すれば、第一志望の時間が削られます。前受けの過去問は「1〜2年分を、時間配分の練習として」——この線引きを最初に決めておくと、迷いが消えます。

逆算カレンダーの起点は「3日目」まで

関西の併願は、統一解禁日から3日目、4日目まで連続することが珍しくありません。第一志望が2日間入試なら、そのあと3日目にも別の学校を受ける——そんな日程を組む家庭も多くあります。

この場合、過去問の演習も「連続した日程」を前提に設計します。1日目に全力を出し切った翌日、さらにその翌日に別の学校の問題を解く。この体力とメンタルの再現は、直前期に一度は経験しておきたいところです。日程全体の考え方は、直前90日の戦略コラムでも整理しています。

関西と首都圏の入試日程の差 関西の中学入試は1月中旬に始まり、首都圏の2月1日より約2週間早いことを時間軸で示した図。 関西は首都圏より約2週間早い 9月 11月 1月中旬 2月1日 関西 統一入試日 首都圏 約2週間 首都圏向けの「9月から10年分」をそのまま使うと 関西では2週間分、間に合わない計算になる 逆算の起点は「2月1日」ではなく「1月中旬」

図|関西の受験生が首都圏の情報をそのまま使うと、着手が2週間遅れる。

3. 「何年分」の現実解——時間から逆算する

ここが、この記事の核心です。定番の「第一志望10年分×3回」を関西最難関で実行すると、何時間かかるのかを実際に計算してみます。

1年分にかかる時間を、正直に数える

まず、過去問1年分に必要な時間を分解します。解く時間だけを数えている家庭が多いのですが、実際は採点と解き直しのほうが長くかかります。

工程4科目1日分の目安備考
解く約3時間本番と同じ時間で通しで実施
採点約1時間記述の部分点の判断に時間がかかる
解き直し約4〜5時間ここが本体。間違えた問題の類題まで含む
合計約8〜9時間1年分=ほぼ1日仕事

2日間入試の学校なら、1年分でこの1.5倍前後——12時間以上かかる計算になります。

「10年分×3回」を計算すると、こうなる

この数字を使って、灘を第一志望とする受験生の計画を試算してみます。

対象必要時間の目安
第一志望(2日間入試)10年分×3回30年分約360時間
併願校3校×5年分×1回15年分約130時間
前受け校2校×2年分4年分約35時間
合計約525時間

9月1日から1月中旬の本番まで、約19週間です。525時間を19週で割ると、週27時間以上。1日あたり4時間近くを、過去問だけに使う計算になります。

ここで思い出してください。この期間、お子さまは塾に通っています。志望校別特訓があり、宿題があり、模試があり、学校にも行きます。週27時間の過去問は、物理的に入りません。

だから、優先順位を決める

「10年分×3回」は、間違った目標ではありません。時間が無限にあれば理想的です。しかし残り時間が有限である以上、入らない計画は、計画ではありません。

効いてくるのは、この計算を9月ではなく今の時期にやっておくことです。夏のうちに「入らない」と分かっていれば、何を優先するかを冷静に決められます。11月に気づくと、決断ではなく切り捨てになります。

4. 時期別カレンダー——7月から1月まで、過去問の役割は変わる

過去問は、時期によって使う目的が変わります。同じ「1年分を解く」でも、夏と12月ではまったく別の作業です。全体像を先に押さえておきましょう。

時期過去問の役割使う年度
7〜8月まだ解かない。基礎の穴を埋める期間。ただし「逆算の1枚」はここで作る—(必要なら最古の1年分だけ現在地確認)
9〜10月傾向を知る。時間内に解き切る感覚をつかむ古い年度から順に
11〜12月得点戦略を固める。科目別の目標点を確定させる中間の年度
12月下旬〜1月本番の再現。合格最低点との距離を最終確認直近3年分(ここまで温存)

7〜8月——解かずに「決める」時期

夏に過去問を解き始める必要はありません。この時期にやるべきは、基礎の穴を埋めることと、計画を決めることです。前章の計算を、この時期にやっておく。それだけで秋の走り方が変わります。

もし現在地を知りたいなら、最も古い年度を1年分だけ解いてみてください。目的は点数ではなく、「本番の問題はこういうものか」という体感を得ることです。ここで悲惨な点数が出ても、まったく問題ありません。夏はそういう時期です。

9〜10月——傾向を知り、時間感覚をつかむ

本格的な開始時期です。ここでの目的は得点ではなく、傾向の体得。大問構成、時間配分、記述の分量、どの分野が頻出か。これらを体で覚えます。

点数は気にしなくて構いません。合格最低点に30点届かなくても、この時期は正常です。むしろ気にすべきは、「時間内に最後まで到達できたか」「解ける問題を落としていないか」という2点です。

11〜12月——科目別の目標点を確定させる

ここから、指標が変わります。「合計で合格最低点を超える設計」を固める時期です。算数で何点、国語で何点、理科と社会で何点——役割を決め、その配分に沿って残り時間を割り振ります。

この時期に併願校の過去問も入れておきます。第一志望だけに集中していると、形式の違う併願校で足をすくわれます。

12月下旬〜1月——温存した直近3年分を使う

最後に、残しておいた直近3年分を使います。本番と同じ時間割、同じ曜日、同じ順番で通す。ここで初めて、合格最低点との距離を「実力の指標」として読むことができます。

直近年度を夏に使ってしまった家庭は、この最終確認ができません。だからこそ「温存」が効いてきます。

5. いつから始めるか——カレンダーではなく準備度で決める

「9月から」という目安には根拠があります。多くの進学塾では夏期講習までに受験に必要な単元をひと通り終えるため、基礎が一段落し、本番までの時間も十分に残っている——という理屈です。

ただ、これはあくまで平均的な受験生の話です。実際の開始時期は、日付ではなくお子さまの学力の準備度で決めるべきです。

早すぎる開始が招く2つの害

周りが始めたから、という理由で走り出すのが最も危険です。過去問は手持ちの弾数が決まっている教材で、一度解いた年度は二度と「初見」に戻りません。

始めてよいサインは、模試の「前半」に出る

準備度を測る目安として、私たちが現場で見ているのは次の3点です。

逆に、正答率50%以上の問題を落とし続けている状態なら、それは基礎の穴のサインです。過去問より先に、その単元に戻ったほうが結果的に速い。成績下降の原因の切り分け方は、6年生で成績が下がる3つの原因のコラムで詳しく整理しています。

迷ったら「1年分だけ」試す

準備度に自信がないなら、9月を待たずに1年分だけ、現在地を測るために解いてみるという方法があります。目的は点数ではなく、「今どこにいるか」の把握です。

ここで注意点が一つ。使うのは最も古い年度にしてください。直近の年度は傾向が本番に近い貴重な弾なので、力がついた12月以降のために残しておきます。

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6. 志望校群別の配分——第一志望・併願・前受け

時間が限られている以上、すべての学校に同じ密度で向き合うことはできません。志望校を3つの群に分け、それぞれ違う目的で使い分けます。

年数と回数の目安目的
第一志望直近5〜7年分を1〜2回傾向の体得と得点戦略の確立
併願校(実力相応)3年分を1回形式への慣れと合格ラインの確認
前受け校1〜2年分時間配分と本番の空気に慣れる

この配分なら、2日間入試の第一志望でも合計150〜200時間程度に収まり、週8〜10時間——現実的な範囲に入ります。

「10年分」より「直近5年分」を選ぶ理由

年数を絞るとき、削るのは古い年度です。理由は3つあります。

塾の方針と衝突したときは

ここで一つ、現実的な問題があります。塾から「10年分やりなさい」と指示が出ることがあるのです。この場合、独断で減らすのは避けてください。塾には塾の設計があり、志望校別特訓の中で過去問を扱う前提かもしれません。

やるべきは、塾の先生に時間の計算を持って相談することです。「今の生活時間だと週◯時間しか取れず、10年分×3回は入りません。どこを優先すべきでしょうか」——この聞き方なら、具体的な答えが返ってきます。数字を持っていくかどうかで、面談の質は大きく変わります。

7. 過去問の準備——赤本・コピー・解答用紙の実務

意外に差がつくのが、解く前の準備です。ここを雑にすると、演習の精度そのものが落ちます。

いつ買うか——夏には手元に置く

過去問集(いわゆる赤本)は、志望校が固まった段階で早めに購入してください。最難関校のものは秋になると書店から消えることがあります。9月に「さあ始めよう」と思って探し始めると、取り寄せで2週間待つ——という事態が起こり得ます。

購入した時点ですぐ解く必要はありません。夏のうちに手元に置き、親が先に眺めておくこと。出題形式、時間、配点、合格最低点の推移。これを保護者が把握しているだけで、逆算の解像度が上がります。

解答用紙は「本番と同じ大きさ」で

ここが最も見落とされる点です。過去問集の解答用紙は、多くの場合縮小されて掲載されています。そのまま使うと、記述の分量感が本番とずれます。

解答用紙は指定の倍率で拡大コピーして、実物大で使ってください。「この欄にこれだけ書ける」という感覚は、実物大でしか身につきません。特に記述の比重が大きい学校を志望する場合、これは得点に直結します。多くの過去問集には拡大率が明記されているので、その指示に従います。

1年分ずつ、ファイルにまとめる

解いた過去問は、年度ごとにクリアファイルへ。中身は、問題・解答用紙・採点済み答案・失点の分類メモの4点セットです。

この蓄積が、12月以降に効いてきます。「9月に解いた年度で落とした問題を、今なら解けるか」——この確認ができるかどうかで、直前期の伸びが変わります。塾の面談や外部の教育相談に持参すれば、状況の共有も一瞬で済みます。

8. 1年分をどう使うか——本体は解いた後にある

過去問演習で最も多い失敗は、解いて、点数を見て、終わりです。これでは、ただの実力測定であって、学習にはなっていません。

解く:本番と同じ条件を再現する

解くときの原則は「本番の再現」です。時間を計り、途中で止めない。関西の最難関を目指すなら、可能な日には4科目を通しで実施してください。1科目ずつバラバラに解くと、後半の科目で集中力が切れるという本番特有の現象が再現できません。

日曜日の午前中を使って、本番と同じ時間割で通す。これができる家庭は、当日の「見たことのある感覚」で戦えます。

採点:合格最低点との差を記録する

採点で見るのは、点数そのものより合格最低点との差です。「算数72点、合格最低点まであと18点」——この形で記録します。記述の部分点は迷いますが、厳しめに採点しておくほうが安全です。

そして必ず、失点を4つに分類してください。①ケアレスミス、②知識の抜け、③解法未定着(解説を読めば分かる)、④時間切れ。この分類が、次の打ち手を決めます。

解き直し:ここに時間の6割を使う

解き直しこそが本体です。時間配分でいえば、解く3割・直す6割・記録1割くらいが理想です。

やり方は単純で、間違えた問題を、解説を見ずにもう一度解く。それでも解けなければ解説を読み、閉じてから、白紙にもう一度書く。ここまでやって初めて「できるようになった」といえます。同じ単元の類題を塾教材から探して1〜2問解けば、定着はぐっと強くなります。

「10年分やった」という事実には、何の価値もありません。価値があるのは、解き直した問題の数だけです。

9. 科目別に見る、過去問の使い方

4科目を同じやり方で扱うのは効率的ではありません。科目ごとに、過去問から引き出せるものが違うからです。

算数——最も差がつく科目。だから最初に手をつける

最難関中学の入試は算数で差がつきます。したがって過去問演習も、算数を最優先で回します。9月に始めるなら、まず算数から。

見るべきは大問1〜2の取りこぼしです。ここは正答率が高く、落とすと致命的。逆に、後半の思考系大問は「部分点をどこまで拾えるか」が勝負になります。完答できなくても、途中式で加点される学校は珍しくありません。白紙で出さない練習を、過去問でしておいてください。

解き直しでは、「なぜその方針を選んだか」を言語化させます。解法の暗記ではなく、方針選択の再現性——これが最難関の算数で問われている力です。

国語——記述の採点基準を親子で共有する

国語の過去問で難しいのは採点です。記述問題は模範解答と一字一句同じにはなりませんから、「何点あげるか」の判断がが要ります。

おすすめは、模範解答を要素に分解する方法です。「主語」「理由」「気持ちの変化」など、必要な要素を数え、いくつ入っているかで採点する。この作業を親子で一緒にやると、子どもの中に「何を書けば点になるか」の基準が育ちます。

学校ごとに、本文の文種(物語文か論説文か)、記述の字数、選択肢の作り方には強い個性があります。国語こそ過去問で「その学校の言語」を知る科目です。

理科——分野別の得点を出す

理科は、物理・化学・生物・地学の4分野で得点力に差が出やすい科目です。過去問を解いたら、必ず分野別に得点を集計してください。「理科が悪い」ではなく「電流と力学で落としている」まで解像度を上げると、対策は半分に絞れます。

計算分野の失点は算数と同じ構造なので、解法の型で対処します。暗記分野の失点は、一問一答の反復で短期間に埋まります。この2つを混ぜて「理科の勉強」とすると、時間の使い方を誤ります。

社会——5年分で十分な理由

社会は、他の3科目より古い年度の価値が落ちます。時事に関わる出題や統計資料は、年度が古くなるほど現在と乖離するためです。5年分程度を目安に、直近を厚めに扱うのが効率的です。

そのぶん、社会は過去問以外の時間で仕上がります。隙間時間の一問一答、資料集の読み込み——ここを日常に組み込んでおけば、過去問はあくまで確認の場として機能します。

10. 2日間入試の学校に特有の過去問の使い方

灘や甲陽学院のような2日間入試の学校を目指す場合、過去問の使い方にも固有の作法があります。

1日目と2日目は、別の試験だと考える

灘の場合、1日目に国語・理科・算数、2日目に2回目の算数・国語があります。同じ科目名でも、1日目と2日目では問題の性格が異なるのが通例です。同じ科目を2回受けるのではなく、性格の違う2つの試験を受けるという理解が出発点になります。

したがって過去問も、1日目だけ、2日目だけを切り出して解くのではなく、セットで扱うのが基本です。どちらか片方の対策に偏ると、合計点の設計が崩れます。

「2日目の朝」を経験しておく

2日間入試で意外に効くのが、1日目の夜の過ごし方です。手応えがなかった日の夜に、どう気持ちを立て直して2日目の朝を迎えるか。これは当日ぶっつけでは難しい。

直前期に一度、土日を使って2日連続で過去問を通す日を作ってください。1日目の夜に「今日の失点を引きずらない」練習をしておくと、本番の精神的な負荷が変わります。合否は、2日目の朝の状態でかなり動きます。

3日目まで受ける前提で体力を測る

東大寺学園や洛南高附のように3日目に入試を実施する学校を併願する場合、3日連続の受験になります。第一志望に2日間を注ぎ込んだ後、さらに翌日に別の学校の問題を解く体力があるか。

この確認は、過去問演習でしかできません。連続日程を一度も試さずに本番を迎えると、3日目に集中力が持たず、実力を出せないまま終わることがあります。

11. 過去問の点数の読み方——合格最低点との距離

過去問を始めると、家庭の空気は点数に支配されがちです。ここでの読み方を間違えると、必要のない志望校変更に走ってしまいます。

9月に届いていないのは、普通のこと

まず前提として、9月の時点で合格最低点に届く受験生のほうが少数です。過去問は本番の問題ですから、仕上がっていない時期に解けば当然点は取れません。

見るべきは1回の点数ではなく、差の推移です。次のように記録してください。

時期合格最低点との差読み方
9月−30点スタート地点。ここで判断しない
11月−15点差が縮まっていれば軌道に乗っている
12月−5点射程圏。取りこぼしの削減に集中
1月±0前後本番の振れ幅の中に入った

この形で並べると、感情ではなく事実で判断できます。差が開き続けている、あるいは同じ単元で失点し続けている場合は、志望校の変更より先に学習内容の見直しが必要なサインです。

指標を偏差値から切り替える

秋以降、模試の偏差値と過去問の得点は、しばしば食い違います。偏差値が届いていないのに過去問では合格最低点に迫る、あるいはその逆。

どちらを信じるべきか。答えは過去問です。入試は模試ではなく、その学校の問題で合否が決まるからです。最難関ほど問題との相性が得点を左右するため、秋以降の判断材料は「志望校の過去問で何点取れるか」に移していきます。

科目ごとの目標点を決める

合格最低点は4科目の合計です。だとすれば、必要なのは全科目で均等に取ることではなく、合計で超える設計です。

「算数で貯金を作り、国語は守る」「理科の計算分野で失点を止める」——このように科目ごとの役割を決めれば、残り時間の配分も自然に決まります。全科目を等しく伸ばそうとするのが、最も時間を失う戦い方です。

12. 現場でよく見る3つのケース——判断の分かれ目

ここまでの内容を、実際の相談で繰り返し出会う典型像に当てはめます。いずれも複数の事例を再構成したもので、結果には個人差がありますが、判断の型として参考にしてください。

ケース1:9月に始めたら、算数が半分も取れなかった

第一志望の算数で、合格最低点に40点届かない。親子ともに青ざめて、「今すぐ演習量を増やそう」となりがちな場面です。

ここで確認すべきは、失点の中身でした。大問1〜2(正答率の高い問題)で落としているのか、後半の思考系で止まっているのか。この家庭は前者、つまり基礎の穴型でした。やったことは、過去問を一旦止め、失点の集中していた単元だけ5年生の教材に2週間戻ること。そのうえで9月末に別の年度を解くと、前半の失点が消えました。過去問の点数は、過去問では上がりません。

ケース2:「10年分終わった」のに、点が伸びない

11月の時点で第一志望の過去問を10年分やり切った。しかし合格最低点との差は9月からほとんど縮まっていない——このケースの原因は、ほぼ例外なく解きっぱなしです。

この家庭では、解いた10年分のうち、間違えた問題を一度も解き直していませんでした。対処は単純で、新しい年度に進むのを止め、すでに解いた年度の間違いを全部解き直すこと。「新しい問題を解くほうが勉強した気になる」という感覚こそが、秋の最大の罠です。

ケース3:併願校の過去問を、1年分も解いていない

第一志望に集中するあまり、併願校の過去問に手が回らないまま年末を迎えたケース。「実力があるから大丈夫」と考えがちですが、これは危険です。

実際、形式が違えば時間配分も違います。第一志望より易しいはずの併願校で、時間切れを起こして不合格——という事故は現実に起こります。この家庭では、12月に併願校を3年分だけ入れました。「易しいから解ける」ではなく、「易しい問題で取りこぼさない練習」として使ったことで、当日の事故を防げました。

3つのケースに共通するのは、量ではなく使い方が結果を決めているという点です。過去問は解いた瞬間ではなく、直した瞬間に力になります。

13. やってはいけない5つの使い方

最後に、現場でよく見る失敗を5つ挙げます。どれも善意から起きるものばかりです。

もう一つ付け加えるなら、過去問を「罰」にしないことです。点が取れなかった日に追加で解かせるといった運用は、過去問そのものへの拒否感を育てます。過去問は敵ではなく、志望校からの手紙のようなものです。

偏差値50台の学校を目指す場合

ここまでは最難関校を前提に書いてきました。志望校が偏差値50台の場合、必要な年数は変わります

最難関校で10年分が必要になるのは、出題の型が細かく分かれていて年度ごとの振れ幅も大きいからです。対して中堅校の入試は、範囲も設問の形も比較的安定しています。3〜5年分を丁寧に2周するほうが、10年分を1周するより点になります

そのぶん空いた時間は、基本問題の反復に回してください。中堅校で合否を分けるのは難問が解けるかどうかではなく、取れる問題を落とさないことです。同じ計算ミスを3回繰り返している状態で過去問に入っても、点数は動きません。

開始時期も変わります。最難関志望なら9月からの着手が現実的ですが、中堅校志望なら10月以降でも間に合うケースが多いものです。焦って前倒しするより、基礎が固まってから入ったほうが効きます

14. まとめ——今日つくる「逆算の1枚」

この記事の要点をまとめます。

①「9月開始・10年分」は2月1日が本番の首都圏基準。関西は約2週間短く、2日間入試なら1年分が2日分。②だから年数を先に決めず、時間から逆算する。③現実解は第一志望5〜7年分×1〜2回、併願3年分、前受け1〜2年分。④開始は日付ではなく学力の準備度で決める。⑤「解いた年数」ではなく「解き直した問題数」が価値。

そのうえで、今日つくっていただきたいものが1枚あります。逆算の1枚です。書く項目は4つだけ。

この1枚があれば、秋になって周りが「10年分終わった」と言い始めても、揺らがずに済みます。逆に、この1枚がないまま9月を迎えると、他人の進捗が判断基準になってしまいます。

過去問は、志望校が「こういう子に来てほしい」と語りかけてくる教材です。その手紙を、何通読んだかではなく、どれだけ深く読み解いたか。そこに、残りの数か月の勝負があります。

よくある質問

Q 中学受験の過去問はいつから始めるべきですか?
A 一般的には小6の9月からと言われますが、日付ではなく学力の準備度で決めるほうが確かです。基礎に大きな穴が残ったまま始めると、点が取れずに自信を失い、解説を読んでも理解できずに時間だけが過ぎます。目安は、志望校レベルの模試で大問の前半が取れていること。関西は統一解禁日が1月中旬で首都圏より約2週間早いため、迷ったら塾の指示を軸に、9月を待たずに1年分だけ試して現在地を測る方法もあります。
Q 過去問は何年分解けばいいですか?
A 「第一志望10年分」が定番の目安ですが、関西最難関では時間の制約から見直しが必要です。灘や甲陽学院のような2日間入試の学校は1年分が2日分になり、併願校と前受け校の分も加わるためです。現実的には、第一志望は直近5〜7年分を1〜2回、併願校は3年分を1回、前受け校は1〜2年分を時間配分の練習として、という配分から組み立て、残り時間に応じて増減させるほうが破綻しにくくなります。
Q 過去問の点数が合格最低点に届きません。志望校を変えるべきですか?
A 秋の時点で届いていないこと自体は珍しくありません。判断は1回の点数ではなく、合格最低点との差が月ごとに縮まっているかで見てください。9月に30点差だったものが11月に15点差になっていれば軌道に乗っています。差が開いている、あるいは同じ単元で失点し続けている場合は、志望校の変更より先に、学習内容の見直しが必要なサインです。
Q 同じ年度の過去問を何回も解くべきですか?
A 2回目以降は答えを覚えてしまうため、得点そのものには意味がなくなります。それでも解き直す価値があるのは、解法の再現性を確認する場合と、時間配分を体に入れる場合です。「3回転」を目的化するより、1年分を丁寧に解き直して、間違えた問題の類題を塾教材から探して潰すほうが、残り時間の使い方としては効率的です。
Proチューターズネットワーク 編集部
中学受験を専門とするプロ家庭教師マッチングサービス「Proチューターズネットワーク」が運営する受験情報メディア。最難関校から中堅校まで、志望校のレベルを問わずご相談を承っています。中学受験・高校受験・大学受験・医学部受験に関する情報を、保護者の方に向けて発信しています。

中学受験の指導実績がある教師

23名が登録しています

うち8名は、灘・甲陽学院・東大寺学園・洛南・西大和学園・大阪星光学院・神戸女学院・四天王寺などの最難関校に生徒を送り出した指導実績を持っています。学生講師は在籍していません。
在籍状況は時期により変わります。担当できる教師がいるかは、教育相談フォームからお問い合わせください。

それでも、一度お話を聞かせてください

ここまで読んで、「うちはいつから始めればいいのか」と思われたかもしれません。

ご家庭だけで抱えていると、「これは相談していいことなのか」を決めるところから始まります。そこで数週間が過ぎるのが、いちばん惜しい。

学年と、いま気になっていることを一言いただければ、こちらで整理してお返しします。その場で決めていただく必要はありません。家庭教師以外の選択肢をお伝えすることもあります。

力になれることがあるなら、なりたいと思っています。

合格や成績の伸びをお約束することはできません。ご希望の条件によっては、お引き合わせが難しい場合もあります。
体験授業を受けたうえで、家庭教師が要らないと判断されたときは、そう言っていただいて構いません。

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