「人間がつくったもので、いちばん速く飛んだものは何か」と聞かれたら、何を思い浮かべますか。ロケットや宇宙の探査機を想像する方が多いと思うんですが、実は「マンホールのふた」だという話があるんです。正直に言うと、私も最初に聞いたときは、さすがに話を盛っているのでは、と思って調べてしまいました。
1957年、アメリカのネバダ州で行われた地下核実験で、深い縦穴の上にかぶせてあった鉄のふたが吹き飛びました。厚さは約10cm、重さは約900kgで、軽自動車1台ぶんくらいです。実験に関わった科学者の計算では、飛び出した瞬間は秒速およそ66kmにもなったのでは、という数字が出ています。ふたはその後も見つかっていなくて、本人は、大気の中で燃え尽きたのではないかと考えていたそうです。
秒速66km、と言われても、私も最初はまったくピンときませんでした。大きすぎる数字は、そのままだと頭に入ってこないんですよね。こういうときこそ、算数の出番です。
秒速66kmだったとして、まずは単位をそろえてみます。秒速66kmに60をかけると分速3,960km、さらに60をかけると時速237,600kmになります。時速300kmで走る新幹線と比べると、237,600÷300で、およそ800倍です。
地球一周は約4万kmなので、40,000÷66で約606秒。つまり、およそ10分で地球を一周できる速さです。月までの約38万kmでも、計算すると1時間40分かかりません。
音と比べることもできます。音の速さは秒速約340mなので、66,000÷340で、およそ190倍です。さらに、地球の引力を振り切って宇宙へ飛び出すのに必要な速さは秒速約11.2kmなので、66÷11.2で約6倍になる。ここまで来ると、もう「速い」という言葉では足りない気がしてきます。
新幹線の800倍、地球一周10分。身近なものに置きかえた瞬間に、数字が急に生きてくるんですよね。
では、そんな速さをどうやって測ったのか。ふたが飛ぶ様子は、1秒間に約1,000コマ撮れる高速カメラで撮影されていたんですが、ふたが写っていたのは、たった1コマだけだったそうです。
ここが算数として面白いところです。速さは道のり÷時間なので、撮影の間隔と、カメラに写る範囲が分かれば、速さを考える手がかりになります。ただ、今回は写っていたのが1コマだけ。秒速66kmという数字も、カメラでぴったり測れた値ではなく、科学者の計算から出てきた推定なんです。
ちなみに、その後、太陽の近くを飛ぶ探査機は、秒速約190kmという速さを記録しています。ふたの話より、さらに約3倍。ここでも、つい数字を比べたくなりますね。
なので、マンホールのふたが「世界最速」だったとまでは言い切れません。それでも、約900kgの鉄のふたが、新幹線の約800倍もの速さで飛んだかもしれない。そう考えると、やっぱり忘れられない話です。
速さの単元は、公式を覚えるところで止まってしまう子も多いんですが、こういう話から入ると、単位を変えたり、何倍かを比べたりすることの意味が、自然と見えてくるかもしれません。
ニュースや豆知識に出てくる数字を、親子で「それって新幹線の何倍?」と計算してみる。そんな遊びの中にも、算数はちゃんと入っています。